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トリアージ──

救急医療現場における選択

大規模な地震やビル火災などの災害が起こり同時に多数の人が負傷した場合、診療や治療にあたる医療関係者は人員、医療器機、医薬品など限られた条件の下で一人でも多くの傷病者を救助するべく最善の処置をとらねばならない。また、災害時に限らず普段病院で外来診療する際も、全ての患者を救うために効率的に治療する必要がある。そこで重要なのが、怪我や病気の緊急性・重症度により治療や搬送の優先順位を決める「トリアージ」だ。ここでは、トリアージの有効性とともに救急医療現場における人命救助の在り方を考えたい。
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■トリアージの概要

人材や資源の制約がある災害医療において求められるのは、確実に、しかも可能な限り多数の傷病者の治療を行うことである。治療・搬送とともに災害時医療の重要な3要素のひとつと言われるトリアージは元々フランス語で「選別」を意味するもので、最善の救命活動を行うために緊急性と重症度によって傷病者を分別し、治療の優先度を決定することを指す。決定した優先順位に従って治療を行うことで、迅速な治療を必要とする人にも適切に対処し、高い救命効果を得ようというものだ。なお、一般病院の救急外来での優先度を決めるのも同じくトリアージで、識別救急とも呼ばれる。

一般的にトリアージは直接治療にあたらない専任の医療従事者が行い、彼らは傷病者数のバランスや緊急性、対象場所の広さなど、現場ごとに異なる要因によって臨機応変に要援助者を選別していく。また、正確性を期すためにも患者の容態の変化を見越して可能な限り繰り返して行うことが奨励されている。

■救急医療現場のトリアージ

災害医療現場では、救命行為にあたる人々の間の意思疎通や情報共有は不可欠だ。複数の救急隊が出動する現場などであっても皆がトリアージの結果を把握しておかねば効率的な処置はできない。そこで救急医療現場において使用されるのが、「トリアージタッグ」だ。これはトリアージの際に用いる識別票のことで、症状により優先順位を4段階に分類し、赤色、黄色、緑色、黒色のうち対応する色で傷病者の症状を表示するものである。トリアージの実施基準は下に示した表のようになっており、原則として生命が危機的状況にあり、なおかつ救命の可能性の高い傷病者が優先される。なお我が国では、平成7年の阪神・淡路大震災の教訓を活かしてトリアージタッグの規格が統一されている。

緊急医療現場で使われるトリアージタッグ災害現場で救助された傷病者は一般的にトリアージ区分された後右手首にトリアージタッグを取り付けられ、その区分に基づき各医療機関に運ばれて必要な処置を受ける。トリアージタッグに記載された内容は適切な治療を行うための重要な情報で、搬送先の医療機関において簡易カルテとして使用することも可能だ。

トリアージの中でも、特に多数の傷病者をトリアージするのに優れた方法が「START(Simple triage and rapid treatment)方式」だ。START方式によるトリアージの最大の特徴は、“如何にして緊急治療群を抽出するか”に主眼が置かれていることである。具体的には3つの流れがあり、まず呼吸、次に循環、そして意識レベルの評価を行う。この方式は、シンプルであるが故に一定の訓練を受けた者ならば判断の誤差が出にくく、短時間で実施できるというメリットがある。だが、小規模の災害現場なら第1順位に区分される例でもSTART方式では第4順位になってしまうといったデメリットも存在している。そのためSTART方式はあくまで“現場に大混乱をきたすほどの大規模災害のために考え出された方式”であることを意識し、区分後も詳細な状態観察とトリアージの継続を怠らぬようにしなければいけない。

トリアージの実施基準

■深まる取り組み

現在、日本では救急車の出動要請の電話があった場合、傷病の程度にかかわらず通報があった順に緊急出動している。しかし、現場に到着して診断した結果軽症であったケースが少なくない。加えて財政面の問題などから救急隊員の大幅な増員が見込めないことから、東京消防庁は平成19年6月より「救急搬送トリアージ」──119番通報受信時におけるトリアージの実施を始めた。

これは、119番通報を受けて出動した救急現場において、明らかに緊急性が認められないと判断した場合には救急隊が患者個人で医療機関を受診するよう促すものだ。その際必要に応じて診療可能な救急医療機関や東京民間救急コールセンター、東京消防庁救急相談センターなどの紹介も行っている。

また救急現場での観察活動を通じたトリアージ、すなわちフィールドトリアージに対して、コールトリアージと呼ばれるものの本格導入が現在検討されている。これは救急要請受信時、通報内容から緊急性や重症度を司令室が判断し、重篤状態が疑われる事案については消防防災ヘリやドクターヘリなどの出動要請を行うものだ。その中で、119番通報受信時に患者が心肺機能停止状態かどうか選別する必要があるため、電話を使った口頭指導──症状や程度を聴取しながら迅速かつ的確に判定を行うことのできる仕組み及び手順の整備も図られているという。不要な救急出動を削りながらも、緊急性の高い患者を低いと誤認するリスクも減らさねばならず、今後はさらに取り組みが深められることだろう。

ここで注意したいのは、救急車の出動を要請する私たちの意識である。より緊急性が高く、救急車を必要とする傷病者のためにも、救急隊を次の緊急出動に備えさせる配慮ができるほどの冷静さを持って行動しなければならないだろう。

■人命救助のために

災害時医療で重要な3つの要素の中で最も重要な要素としてトリアージが挙げられる理由は、救急医療現場において判断力が非常に大きなウエイトを占めるからだと言えるだろう。実施基準はあるが、状況によってはその限りではなく、災害による混乱状態にあるからこそ現状を冷静に受け止める力がトリアージ実施者には求められる。それだけに実施者には大きな責任が課せられるという課題が残されているのが現状だ。そういった負担を減らすためにも、現場によって異なる医療資源や搬送条件、また刻一刻と変化する患者の状態などを全ての医療従事者が把握し、協力してトリアージを行うべきである。

本来、医療とは、全ての人命救助を目的とするものだが、トリアージは傷病者の線引きを行って治療の優先順位を決めてしまうため「生命の選別ではないか」との批判の声も聞かれる。だが、そもそもトリアージは、傷病者数に対して医療機関のキャパシティーが明らかに不足することが分かっている状況において被害を最小限に食い止めるために生まれたもの。日常の医療現場のように時間や資材、スタッフ数など様々な面で全力を注ぐことができない中で如何に医療活動を行うか──つまり根底には同じく人命救助の概念があることを忘れてはならない。

平成17年4月に起きたJR福知山線脱線事故においては現場に駆けつけた医療機関がトリアージを行い、500名を超える負傷者の救急医療にあたった。このように、トリアージが特に注目されるのは災害時である。もちろん、災害を避けるのは不可能であり、また私たちがトリアージを受けることは稀だが、トリアージに関する興味や知識は普段から持っていたい。なぜなら一人ひとりがそうすることで非常時にも落ち着いて対処でき、少しでも円滑な人命救助に貢献できるからである。

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