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「ジェンダーフリー」が家庭を壊す!?

〜バックラッシュを考えよう〜

●男女共同参画基本法

1999年6月施行。「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」をもとにつくられ、男女平等な社会の創造を目的とした法律。基本理念として「男女の人権の尊重」「社会における制度または慣行についての配慮」「政策等の立案及び決定への共同参画」「家庭生活における活動と他の活動の両立」「国際的協調」を掲げている。今なお賛否両論のある法律。

 

●ジェンダー/ジェンダーフリー

生物的な性をsexと定義するのに対し、ジェンダーは社会的・文化的な性を指す。ジェンダーフリーは、それら社会的性役割から脱し、それぞれの個性や資質に合った生き方を自分で決定できるようにしようという考え方。

 

●フェミニズム

女性の社会的、政治的、経済的権利を男性と同等にし、女性の能力や役割の発展を目ざす主張および運動。女権拡張論。女性解放論。

* * *

2008年1月17日、茨城県つくばみらい市が開催を予定していた、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者の一時避難施設『FTCシェルター』代表・平川和子さんによる講演会がDV被害支援活動に反対する人々の抗議を受けて中止になっていたことが報道された。市によると、07年12月に市の広報誌にて予定を掲載したところ、「平川氏の活動は思想的に偏りがあり、公費を使用する講演には相応しくない」との抗議電話やメール、FAXが殺到。市役所前で拡声器を使用したりするなど活発な抗議もあり、市民への危険を考えて市は中止することを決断したという。

 

抗議を実行した『主権回復を目指す会』や『DV防止法犠牲家族支援の会』の主張はこうだ。「普通の夫婦間に軽度・単純・単発的な“暴力”はあって当たり前。『夫からの暴力根絶』論は、過激フェミニズム」だと。

 

実は近年、このようなフェミニズムやジェンダーフリーに対する反対活動が頻繁に行われている。最も顕著な例は、05年に自民党が安部晋三議員を座長とした「過激な性教育・ジェンダーフリーに関する実態調査プロジェクト」が発足したことだろう。このチームの発足事由は、中高校においての家庭科共修にて性役割分業を見直す内容が盛り込まれたり、小学校からの性教育の内容を改めて見直すことを目的としている。同チームの勉強会で講演した大学助教授は「ジェンダーフリーは性差の否定、家族の解体、伝統・文化の否定、性の解放を目指す革命思想に基づいたもの」とし、チームも「多くの国民に問題解決を訴えていく」方針を固めた。

■「ジェンダーフリー」は革命思想!

先述の調査プロジェクトチームの発足理由は「性・家族・文化を否定するジェンダーフリー教育を考え直すこと」とまとめることができるだろう。ジェンダーフリーとは「“男らしい” “女らしい”という性による役割分業を固定的に考えるのはやめよう」という考え方のことだ。先述した『主権回復を目指す会』や「実態調査プロジェクト」は、この“らしさ”をなくすことが「性・家族・文化の否定」だと主張している。

 

いくつか例を挙げてみよう。ジェンダーフリー活動が活発化したことを受け、ひな祭りや端午の節句など、男女の子どもの祭りを取りやめる動きが一部地方ではあるという。それを指して「ジェンダーフリーは文化を否定している」との主張へとつながっていくのだ。実際に全国でそのような動きになれば、日本伝統がジェンダーフリーによって崩壊してしまうとの危機感を抱くのも納得できる。他に「夫婦別姓は“個人の権利”として見れば正当な要求かもしれないが、“家”を一個の団体社会とみるならば“家”を象徴する姓を別個にしてしまうことは“家”社会の崩壊を意味する」との意見もある。筆者の身の回りでも「結婚するなら同じ姓でいいじゃない。なぜわざわざ別々の姓を主張しなくてはいけないのか」と言う人が多い。つまり、ジェンダーフリーという思想は、伝統や文化をばらばらにする危険性をはらんでいたのだった。

■フェミニズムが家庭を壊す!

フェミニズムに対しても多くの意見がある。メディアなどで最も多く発信され続けているのは、「女性らしさを失うことは、女性として不幸である」とのメッセージだ。例えば、男女共同参画基本法制定後、正社員で働く女性が増加したことが、未婚率を上昇させているというのだ。1980年の生涯未婚率は、男性で2.60パーセント、女性は4.45パーセント。そして、基本法が制定された99年以降では、未婚率は明らかに上昇している。2000年の男性の生涯未婚率は12.57パーセントで女性は5.82パーセント。最近になると05年では男性15.96パーセント、女性7.25パーセント(08年人口統計資料より)と上昇の一途を辿っており、男女共同参画基本法の改正による結婚への意思・または結婚を巡る状況に変化があったことは認めざるを得ない。同法は男女の人権の平等を主張し、社会生活で実力を発揮できるようにと制定された法令だ。これにより女性の正社員登用は進み、女性管理職も増えつつある。しかし、出産・育児のため休暇が必要となっても管理職では仕事は休めない。生まれたばかりの子どもは保育園かベビーシッターに預けるしかない。育児と仕事に疲れ切った女性では、温かな家庭を築くのは困難だろう。男性並みの仕事をしていては、本来の"女性らしさ”が失われ、結婚・出産・育児に支障をきたしてしまう。多くの働く女性は、「社会に進出しなければならない」という近代の思想と「女性としての役割」の間で揺れ動き、結果過度のストレスを抱えている。この女性の悩みを助長したのが、フェミニズムなのだ。男性と女性に肉体的差異があるのは当然であり、その差異を無視した平等は、“不自然”であり、その“不自然さ”が女性の不幸を招く。女性は“女性らしい”幸せを楽しむことが、自然に乗っ取った生き方なのだ。

■バックラッシュを考える

「もはやこれほど女性進出が一般化した今、フェミニズムもジェンダーという概念も必要ない──。むしろ、かつてのフェミニズム運動が社会に受け入れられてきたことで、フェミニズム論者達は行き過ぎた要求をしてきている」。

 

これが一部の人々の見解だ。その見解は時に政治、教育、職場、メディアから発信されている。これをフェミニズムの立場からは「バックラッシュ(反動)」と呼ぶ。これまで詳述してきた内容もバックラッシュと言えるだろう。1970年代から「もう少し楽に生きたい」と訴え続けてきたフェミニズムに対し、「“女性らしく”生きることが女性の幸せ」とするバックラッシュ。双方が相反するのは、そもそも「女性」としての概念に食い違いがあるからだろう。

 

フェミニズムは語る。「働いても男性ほど昇進の機会に恵まれない。給与格差はまだ残る。結婚すれば無賃金労働。生活のために結婚・育児をしていくのは辛い。なぜ男性と同じだけ“働くこと”を評価されないのだろうか」。一方、バックラッシュは「男女の差異は当然。女性には女性にしかできないことがある。なぜそちらを優先させないのか」とフェミニストを諭す。

 

では、バックラッシュを考える上で、見過ごせない点を挙げてみよう。それは、これまでも何度か登場した「自然な生き方」という点である。自然とは「人や物に本来備わっている性質」(現代新国語辞典より)のこと。“女性らしさ”は女性が生まれついて持っている性質であり、それは愛情深さであったり、母性であったり、夫への献身であったりするから、「結婚して子どもを生み育てること=幸せ」につながるのだ。だが、それを実践してきた専業主婦全盛期である60〜70年代の主婦達は、今や熟年離婚を虎視眈々と狙っており、「もう夫の顔を見たくない」と家を出て行く。“女性らしい生き方”を実践した結果、彼女達はその主張が自分たちを“幸せ”にしてくれなかったことを身を以て学んだのだ。

 

“女性らしい”人生は、女性を幸福にはしない。それは、そもそも“女性らしい”という概念を、自分以外の誰かから教えられ、それを信じ切ったためだ。“自分”を“幸せ”にするには、“自分”が考えなければならない。考えた結果が子どもを生み・育てることであれば、社会になど出なくとも幸せになれるだろう。だが、家庭に入ることが自らの幸せとつながらない女性はどうすればいいのか─? そのような女性を支えるためにこそ、フェミニズムが存在し、男女共同参画基本法は成立したのだ。そして、基本法を浸透させるには、ジェンダーフリー教育を行い、かつての“女性らしさ”神話を持たない世代をつくらなければならない。意識の多様化は多くの人々が自らの幸せを考えるために、今後避けては通れない。現実問題として、少子高齢が顕著となり、景気低迷が深刻化する現代社会において、女性労働者がかつてのように結婚後に家庭に入ってしまっては、社会を支える労働者が激減してしまうだろう。特にジェンダーフリーの意識は、日本社会を維持するためにも必要となる。

 

バックラッシュは、昨今“急激に”進んでいるジェンダーフリーやフェミニズム運動に対する反動である。フェミニズムはもう50年ほども前から主張され続けてきたが、社会に受け入れられてきたのは近年のことだ。今まで意識していなかった人々は、その変化を受け止めきれずにいるのかもしれない。しかし、ゆっくりと確実に、人々が自分の幸せについて自由に考えられる日が近づいている。いずれ万人がその事実を認め合うことができればいいのだが。

 

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