
7月に入り、2011年度卒業予定学生による就職活動は本格化していることだろう。「秋までには内定がほしい」と、汗だくになりながら慣れないスーツで闊歩する学生達をオフィス街で見かけるようになるころでもある。学生達が必死になっているのには、周知のとおり企業の新卒採用数の減少が背景にある。また、せっかく内定をもらっても内定取り消しがあったり、たとえ入社しても自宅待機を言い渡されたり、リストラに遭うことも珍しくなくなった。かつての新卒一括採用・終身雇用制度は既に過去のものとなり、新たな働き方が求められている。21世紀はどのような働き方が提示されるのか、新社会人の労働に対する意識調査から考えてみた。リーマン・ショックに端を発した就職氷河期の再来に嘆いている学生は少なくないだろう。正社員で雇用されることは、狭き門となってしまった。最新の新卒採用情報を見てみると、2011年春の採用数は10年春の実績に比べ1パーセント減少している。さらに、減少幅は縮まったが2年連続のマイナスで新卒者の採用抑制傾向が続いており、一社当たりの採用数は、09年春の約7割に留まっているという。高校生に至っては、新卒者の内定率は1月時点で81.1パーセントと、前年同期より6.4ポイントも悪化している。狭き門を何とかくぐり抜けるため、学生達は50社〜100社にエントリーシートを提出し、説明会周りをするのだとか。インターネットの台頭により、手書きでエントリーシートを書いていたころよりも時間短縮できるはずだったが、誰でも気軽にエントリーができるために一企業に応募者が殺到し、そのために就活が長期化するという影響も出てきている。学生の金銭的・精神的負担はいかばかりか、想像に難くない。
ところで、新卒採用数が減少しているのに対し、10年度中途採用数は前年度見込みに比べ5.6パーセント増と、2年ぶりに拡大を見せている。さらに、中小・ベンチャー企業ほど、新卒採用した人材に対し「質・量ともに不満」と感じているという(ディスコ調べ)。「優秀な即戦力となる人材なら、今すぐにでも、もっと大勢ほしい」──。そんな企業側の声が聞こえてくるようだ。だが、新卒一括採用で対象となるのは学生で、即戦力のニーズに応えられるだけのスキルを持つ人材は多くはないだろう。結果として、能力の高い学生を企業が取り合い、その他の学生はなかなか内定が出ずに、場合によっては就活のために留年したり、大学院へ進学したり、専門学校へ通って次なる就活に備えることになる。
さらなる出費をしてでも職を得たいという、必死の体の学生達。そんな彼らは、社会に出て働くことの意味をどのように捉えているのだろうか。
公益財団法人『日本生産性本部』が1990年より毎年行っている「新入社員意識調査」の2010年の統計では、「今の会社に一生勤めようと思っている」との設問に対する「はい」の回答が57.4パーセントと、過去最高値を記録している(表1参照)。必死になって勝ち取った職場であろうから、当然とも言える結果だ。その結果を裏付けるように、離職率も大幅な減少傾向にある。かつては「最近は3年で3割の若手社員が辞めてしまう」という声も上がっていたが、07年新規大学卒就職者の3年以内の離職率は23.3パーセントとなり、08年には12.1パーセントまで減少しているのだ(厚生労働省職業安定局集計より)。中途退職者が減少している点は、経営者にとっては大きな朗報であろう。
では、どのような基準で「働き続けたい」と思える職場を決めたのだろうか。「2010年度新入社員意識調査」で「就職活動のとき、会社を選ぶ基準にしたことは」との設問には「仕事に魅力を感じた」が37.1パーセント、「経営・業績の安定」が14.9パーセント、「社員・社風に魅力を感じた」で11.8パーセントだった。この結果から、新入社員は「安定した会社」で「和気あいあいと興味のある仕事に取り組みたい」という希望が読み取れる。特に協調性を重んじる傾向が強いようで、別の設問で「担当したい仕事」の二択のうち、「個人的な努力が直接成果に結びつく仕事」より「職場の先輩や他の部門とチームを組んで、成果を分かち合える仕事」が84.7パーセントと圧倒的な数値を見せた。これら結果から、「周囲との関係性」を重視する若者の傾向が見て取れるだろう。
一方で、和を乱すことに対しては強い不安感を抱いているようだ。09年の同調査では「上司から会社のためにはなるが、自分の良心に反する手段で仕事を進めるように指示された際、指示通りに行動する」との回答が40.6パーセントだった。10年度調査においても「社内で出世するより、自分で起業して独立したいと思う」は12.8パーセントで、やはり孤立に対して、または孤立することによって発生するリスクや責任を回避したい傾向があると考えられる(表2参照)。
そもそも、彼らの言う「安定」とは何なのか。彼らの最も身近な存在である親が言うところの「安定」は、サラリーマンとしての「安定」、つまり終身雇用のことだろう。
終身雇用は、日本が経済成長期に差し掛かったころ、貧しい暮らしから一転して国民総中流家庭を実現せんがために、皆一様に物質的豊かさを追い求めたという時代背景のもとに打ち出された働き方だ。だからこそ、金銭的・物質的な援助を行えば社員は辛抱強く激務に向き合うことができた。
一方、新社会人達は生まれた時からテレビ・冷蔵庫・洗濯機はもちろん、ゲームも携帯電話もパソコンも個人所有する環境で育ってきた。しかもバブル崩壊後の平成不況のただ中で成長し、会社が自分の幸せを保障しないことを肌で感じ取っている。したがって、実は彼らは金銭的・物質的な満足感はさほど追い求めてはいないと考えられる。
であれば、この時点で会社が提供し得るかつての終身雇用による「安定」と新社会人が希望する「安定」の意味合いは違ってくる。おそらく新社会人の求める「安定」とは「安定した環境で労働することによって収入が得られること」を前提に、「堅実に生きること」を求めているのではないだろうか。堅実に生きるとは“残業してでも出世を目指す”のではなく、“質素でも皆と仲良く暮らしていければ良い”ということ。先述した意識調査「会社を選ぶ基準」の結果にも反映されているように感じられてならない。つまり、労働に対して新たな価値観が生まれているのだ。
新社会人は労働に対して、かつてとは異なる価値観を形成しつつある。これから先、どのような雇用形態を選んでいくのか、それは今若手と言われる労働者が自ら考えなければならないことだ。すでに終身雇用の他、契約社員、派遣社員、フリーターなど様々な働き方があり、ワークシェアリングなども提案されていることから、今後新たな価値観にふさわしい働き方、ライフスタイルがつくられていくことだろう。
例えば、ワークシェアリングを用いればボランティアに週3日を費やし、残り4日を仕事に当てることもできる。また、飲食業務とIT業務の双方に興味がある人なら、普段は飲食店で働き、IT業務で新プロジェクトが立ち上がった時に集中して参加するといった働き方も可能だろう。つまり「和気あいあいと興味のある仕事に取り組める」可能性が広がっているわけだ。
だがこのような働き方は、今はまだ「フリーター」「派遣社員」としてネガティブなイメージがつきまとっている。このネガティブなイメージの根源には「必ず正社員にならなければならない」という、新社会人の親世代の無言の圧力があるからだ。だが、そのような意識はもう若手労働者には通用しない。新たな雇用形態を認め、政府はそれに対する支援を行っていかなければ、真の意味で雇用対策を打ち出しているとは言えないだろう。
今後、どのような働き方が生まれるのか、それによってどのようなライフスタイルが誕生するのか──日本の雇用をとりまく環境の変化は、若手労働者に委ねられている。願わくば、激務で心身を崩していく人が減り、皆が心豊かに暮らせる社会を再形成してほしいものだ。