

日本の食文化は、四季折々の情緒を大切にする。その季節にしか味わえない“旬”の食材を多く使用し、見た目の色合いから盛りつけ、食器に至るまで気が配られる。
これは、料理は舌だけではなく、五感全てで楽しみたいという、日本人が昔から食に対して持ってきた豊かな感性の表れではないだろうか。
しかし、ただ思うままに食事を楽しめばいいというわけではない。家族や友人、時には目上の人との食事の席で、自分だけ楽しむという考えは、周囲に不快な気分を与えかねない。
そうならないためにも、食事の礼儀作法に対する知識を深め、よりおいしく、またより楽しく食事を戴きたい。
たった二本の棒で、「挟む」「千切る」「掬う」など、食事に必要な動きが行える道具──箸。昔から、「和食の作法は箸に始まり箸に終わる」「箸さばきを見れば、その人の育ちや人柄が分かる」と言われており、それだけに箸の作法は、日本人としてきちんと身に付けておきたい。
一本目を人差し指と中指で挟み、二本目は親指の付け根と薬指の第一関節辺りで支えるようにして、箸先から長さ三分の二程上を持つ。この「くちばし型」と呼ばれる持ち方が、最も見た目が美しく、箸の機能を最大限に生かすとされる。
美しい持ち方をしたなら、所作にも気を付けたい。箸を取る時は、まず右手の親指、人差し指、中指の三本で中央部分を持ち上げる。次に左手で下から受け取る様に箸の中央部分を持ち、右手を右へスライドさせ、端に来たら手の平を上に向けて下から持ち直す。そのまま、箸先を手の甲より上に向けないよう心掛けながら食事を進めれば、より優雅な所作となる。
その一方で、「嫌い箸」と言われる不作法な箸使いは70種類もある。一般的によく知られているのが、箸で器を引き寄せる「寄せ箸」や、箸で人や物を指す「指差し箸」。それ以外にも、箸先を膳の上や食器の上で叩いて揃える「そろえ箸」、口に入れた料理を箸で押し込む「押し込み箸」、食事の途中で箸を食器の上に渡して置く「渡し箸」などがある。
和食の食器には、手に持ってよい物と持ってはいけない物がある。前者は、ご飯茶碗、和え物の小鉢、汁物のお椀、茶碗蒸しの器、付け汁の器などで、後者は、刺身や天ぷらの盛り合わせ、焼き魚の平皿、煮物の器などである。これらは食卓の上に置いたままにして取るが、その際に左手は必ず器に添え、食卓に傷が付かないようにする。
他にも、器を持つ時に気を付けたいのが「袖越し」と呼ばれる動作。これは、右に置いてある器を左手で取ったり、またその逆のことをいう。料理の上を腕が横切るのは服を汚す恐れがあり、見た目も悪い。遠くにある器を取りたい時は、その近くにいる人に取ってもらおう。
日々、様々な場所で活躍する企業人ならば、お酒の席に呼ばれることも少なくないのでは? 時には、格式の高い席に呼ばれることもあるはず。そんな時のために、知っていてよかったと思うのがお酌の作法だろう。
まず、日本酒はお銚子の真ん中辺りを右手で持つ。注ぐ時は左手を添え、その左手を支えにする。片手で注ぐのは上品とは言えないので避けたい。お猪口を食卓に置いたまま注ぐ、「置き注ぎ」もマナーに反する。
和食の席でビールを好んで飲む人も多いため、ビールのお酌もぜひ覚えておきたいところだ。お銚子と同様に、瓶の真ん中辺りを右手で持ち、左手を軽く添え、ラベルを上にして注ぐ。この時、手の平を上にすることは、「逆手の逆注ぎ」と言ってとても失礼にあたる。
お酒の席では、周囲の人の盃を空のままにしないようにすることが基本だ。しかし、お酌をする前には、お酒の残りの量を確かめておくこと。お酌の途中で盃が一杯にならなかった、では失礼というものだろう。
ただ、どれだけその場が盛り上がっていようと、無理をしてまでお酒を飲む必要はない。泥酔してしまっては周囲に迷惑が掛かるだけでなく、自身の健康にも良くない。断る場合にもマナーを意識し、「これ以上はいただけません」と素直に断るか、盃に指で軽く蓋をして意思表示してもよい。
これまで食事の作法について述べてきたが、難しく考え過ぎて食事を楽しめなくなってしまうようでは本末転倒だ。周囲の人へ配慮の心を向け、気持ち良くおいしく食事を楽しむことが、最も大切な“作法”ではないだろうか。その上で、人間性が滲み出る所作ができれば、より楽しい時間が過ごせるだろう。
時には、自分の礼儀作法を見直して、より充実した食事を味わってみてはいかがだろうか。
参考文献:「日本人 礼儀作法のしきたり」
2007.飯倉晴武[監修].青春出版社